1978年8月

大学2年生の夏休みのことです。友達と酒を飲んで、西武新宿線の新宿駅から最終
電車で帰って来ました。あの頃の終電は、確か12時30分発上石神井駅止まりだった
と思います。終点の上石神井駅には自転車を置いていたので、自転車の鍵を開け自
宅へと向いました。この時点でたぶん1時頃だったと思います。
早稲田高等学院を過ぎると大泉に向う坂道を一気に下ります。坂の下でいつも左折し、
住宅街を抜けて大好きな芝生畑の道を行くのがお決まりのコースでした。芝生畑の道
にさしかかったところで空を見上げました。夏なのにかなりの星が出ていて、はっきり
星がキレイだったと記憶があります。この時点で深夜1時5〜10分位だったと思います。
ここから記憶がないのです。
突然肩をトントンと叩かれました。そこには自転車のお巡りさんが立っていました。
「君、ここで何してるの?」と聞かれ、ハッと我に返りました。
辺りを見回すと、既に明るく例の芝生の道の溝に自転車の前輪が落ちており、つんの
めるように自転車に跨っていました。その当時の私の自転車はセミドロップタイプの10
段変則ギアのついたスポーツサイクルで、気が付いた途端倒れそうになりました。
「大丈夫です・・」と言いながら、自転車を起こし自宅に向いました。キツネにつままれた
ようで、事態が良く分からないまま自宅に帰ると、猛烈な睡魔に襲われました。ベッドで
腕時計を外し、目覚ましを見ると5時半過ぎでした。それを見て爆睡してしまいました。
午後何時か忘れましたが、目が覚めて枕もとにある腕時計を見てビックリしました。
ラドーの自動巻きアナログ時計が止まっていました。買ってから一度も止まったことの
ない時計が止まっていたので、てっきり壊れたと思いました。修理か・・と思いながら少
し強く振ってみるとあっさり動き出しました。なんだと思いながら、時間が変なので合わ
せようと思い、目覚まし時計を見て急に今朝の出来事を思い出しました。
「そういえば今朝お巡りさんに起こされたんだよな・・オレ昨日何してたっけ・・」
思い返すうちにギョッとしました。腕時計は1時5分を指しています。
(この時刻は忘れてしまい定かではありませんが、まさに芝生畑を通過していたと思わ
れる時刻を指していました。)
へっ??・・オレ4時間以上あそこで何してたんだ?衣服に芝生もついていないし、芝生
では寝ていなかった・・・。そうだ自転車に跨っていたんだ!オレは自転車の上で4時間
以上寝ていたのか?そんなバカな・・・。思い出した途端、自転車で現場に向いました。
この日は物凄く暑かったことを覚えています。現場は家から5分程の所ですが、どの辺
で肩を叩かれたのかさっぱり分かりませんでした。試しに自転車の前輪を側溝に突っ
込んでみると、とても立っていられないことが分かりました。きっとこの状態から倒れて
寝てしまい、また起き上がったところでお巡りさんが起こしてくれたのだろうと思い、やっ
てみて分かりました。そんなアホな奴はいないことが。起こしたときに側溝から前輪を持
ち上げるに決まっているからです。いくら酒を飲んでいたとはいえ、曲芸状態のこの体制
は30秒と持ちません。半袖シャツだったので、腕にキズがないか探しましたがありません。
自転車のキズや衣服のキズも探しましたが、かすり傷すら見つかりませんでした。
帰りに朝のお巡りさんに聞いてみようと思い、すぐ近くの交番に寄ってみましたが、その
時間は見回りはしないなど言われ、ここの交番の人間じゃないだろうと言われました。
私はいいかげん酒を飲みますが、いつも帰りはしっかり帰宅し、家にたどり着けなかった
ことなど一度もありません。この日も終電で帰って来たことや、自転車置き場から自分の
自転車で帰って来たこと、星がキレイでどの道を通ったかをちゃんと覚えていました。
酒を飲み始めて四半世紀を超えますが、その事件以来後にも先にもこんな経験はありま
せん。これが宇宙人の仕業とはとても思えませんが、右足の膝上に覚えのない変なキズ
ができたのはちょうどこの頃です。